フローリングの上。向き合うように座っていたら、今日はなんの日でしょう、と虎太郎が思い出したように口にした。橘が少し考えて、とりあえず日付を訊きかえすと、あきれたような顔をする。ばつがわるくて、困ったように笑った橘に、虎太郎はこんどはむっとしたような表情になった。くるくるかわる表情が、とてもいとおしい。腕を伸ばして、栗色の髪をくしゃくしゃと撫でた。ふんわりと、シャンプーの香りが鼻をくすぐる。この家のシャンプーは、かすかに甘い香りがするらしい。
「きみってさあ…なんていうか、ちょっと」
 唇を尖らせる虎太郎に、子供染みた仕草が妙に似合うのだなと橘は変な感心をした。感心しながら、その唇に口付けたいと衝動的に思う。…今、このタイミングでそんなことをして、怒らせてしまわないだろうか。そう考えるよりも前に、身体が動いた。
「わ、なに?」
 驚いたような声をあげた虎太郎の唇に、自分のそれを押し付けるようにする。いきなりであったためか、虎太郎が珍しく眼を開いていることに橘は気付いて、だから意図的に目を合わせた。触れ合った体温が、ぐん、と上昇したように感じる。
(睫毛は、意外と、みじかいのか)
(目はおおきいのにな)
 そんなことを考えながら舌を入れるでもなくそのまま触れ合っていると、ぎゅ、と。肩を強く掴まれて、身体を離した。
「…どうした、」
「ど、うしたじゃないよ!僕のはなしは終わってないだろ!今日がなんの日か、わかったわけ?」
「いや、」
「じゃあ言うけどさ、今日はね、僕と橘さんの、まんなか誕生日なんだよ」


 せっかく発見したのにさ、きみったらいきなり、キスなんてとぶつぶつ文句をいう虎太郎の額に、謝罪とお祝いの意味を込めて、もうひとつキスをした。


(05**** / 確か役者のまんなか誕生日に書いたんじゃ、なかったかな…自分の若さにめげそうだ)