剣崎くんは、すべての人を救いたいと願っていた。たとえ戦いの最中であっても、すべての人が幸せになれる、そんな方法をずっと探していた。それどころか剣崎くんは、始をも救うつもりでいた…始が人でないことを、僕らはみんな承知していたのに。
(それとも剣崎くん、キミの目には)
 始は人として映っていたのだろうか。"すべての人"のひとりとして、大切な仲間のひとりとして、剣崎くんは始を守ろうとしたのだろうか。


 最近になってようやく僕は、姿を消した剣崎くんの気持ち・あるいは現在についてゆっくりと考えられるようになった。1年というとても短い、けれど確かな時間が経って、こころにほんの少しだけ、余裕ができたのかも知れない。こころのことはわからないにしろ、毎日の生活に余裕ができたのは事実だった。烏丸所長の手伝いを終え、就職した広瀬さんがこの家を去り、僕はまたひとりでこの家に住むようになったからだ。
 剣崎くんにとっての世界、世界にとっての剣崎くん。その重みのちがいは、あまりにも大きい。彼が世界に示した優しさを、世界は彼に返さないだろう。僕は、そのことが許せない。許せないし、悔しいと思う。僕は剣崎くんにいくらでも優しくしてあげたいのに、僕にはそれができないから。僕だけじゃない、始も橘さんも睦月も広瀬さんも、みんな剣崎くんに優しくしたいのだ。…今もなお剣崎くんが戻ってこないのは、それを望まないからだと知ってはいるのだけれど。
(ずるい、ずるいよ剣崎くん、)
(取り残される哀しみを、知らないキミじゃないのにさ)
 季節がめぐって、またあの日が近づいている。そのことを、みんながひどく意識していることは僕も知っていた。始は最近よく遠出をしているというし、橘さんからの連絡もこのごろ急にふえている。受験勉強だのなんだのと忙しいだろうに、睦月までふらふら出歩いているというからある種問題だといってもいい。みんなが剣崎くんを忘れないのはいいことだ、けれどこんなのは哀しいだけじゃないかとも思う。
「いったいキミは、どこをほっつき歩いてるのさ…」
 帰ってこなくたっていい、電話でも、手紙だってかまわない。ほんのすこしでも、僕らを安心させてほしい。そしてできれば、


…僕らをおいて消えてしまわないで。


(05**** / 仮面ライダー剣、最終話後。剣崎のことを思うと今でも泣ける)