私はお前の欲望、すなわち、神だ


 部屋の調度は、その殆どが眩い白に統一を為されていた。ルーファウスはどういう訳か、この色ばかりを好むのだ。この部屋にあって、闇色に身を包んだ自分の姿は、どんなにか異質めいて見えるのだろう。穢れのない色の中、ツォンは眩暈さえ覚えそうな気分になった。
「随分と、浮かない顔をしているな…私の相手は気が滅入るか?」
 揶揄するように言った声は、無論部屋の主のものだ。振返れば、既にジャケットを脱ぎ 捨てたルーファウスの姿がある。 彼の指摘はあながち外れでもなかったが…それをここで口に するのは憚られ、ツォンはただ微笑するに止どまった。この子供の不興を買うのは容易だ が、それは賢明とは言い難い。返答しないツォンに対し、何か思うところがあったのだろ う、ルーファウスはどこか満足げな笑みを浮かべた。
「お前のその賢明さが、私は好きだよ」
 賢いお前は無論のこと、この部屋を訪問することの意味を、考えなかった訳では あるまい?暗に示されたその囁きに、気がつかないツォンではない。そもそものツォンの憂鬱の根源もまた、そのことにあるのだから。
白磁の指がつと伸ばされて、黒いタイを絡めとる。ルーファウスの見せた所作に、ツォ ンは一瞬息を詰めた。ああ、もう逃げ場などない  それは、この部屋に踏み入れた時点で 既に抱えていた思いだった。視界の隅、蒼の双眸がさも愉快そうに細められるのがわかる。無邪気さと残虐さとを併せ持ったその瞳に、ツォンは改めて焦燥した。例え逃げ場があったとして、この子供が自分を逃がすとも思えなかった。


「ルーファウス様、どうか」
 縋るように発した言葉は、終わりを待たずにかき消える。乾いた喉のためではなく、柔らかな唇のためであった。


(20060405 / 能動的なルーファウス、基本は受身のツォン。冒頭の文章はアーシアンより)