雨の降った午後のことだ。下校を知らせる鐘と同時に図書室を出たは、ふと視界の片隅に、透明な色彩を見た。それは正確には色彩ではなかったが、それでもそう思えたのだ。 「阿弥陀丸さん、」 瞠目する少女の姿に、侍は淡く微笑った。 そよらと髪をさらう風は、緑の香りを帯びている。薄明るい空の下、帰路に当るあぜ道には人の姿が少なかった。膚から感じる湿度にやや、は顔を顰めたが、ちらと横目で見てみれば、阿弥陀丸は涼しそうな顔をしている。彼の五感は死してなお健在である筈なので、そもそもの資本というのが違うのだろうとどこかで思った。 『まだ梅雨明けは遠いと聞く。このような晴れ間というのは貴重でござるな』 低いけれど、柔らかい声。それは湿った空気に溶けて、膚にそっと触れた気がした。は少し考えてから、丁寧に言葉を選ぶ。 「でもきっと、私たちが思うよりずっと早く、夏は来ると思います」 『 「ええ、これまでの季節のように」 木枯しの季節と共にこの世界に訪れた、シャーマンファイト。突然に始まったその儀式は、終わるのもまた唐突だった。あれから早5年が経つ。とまん太はそのまま森羅学園高等部へと進学したが、葉とアンナは義務教育を終えるや否や家庭へと入ってしまった。未だ婚姻適齢に達していないふたりの間に生まれた子を花という。その花も、もうふたつ。変わらずそこに存在し続けるものなどこの世には滅多にない。それは例えば、 (それは例えば、私とこの人の距離、だ) 思い当たって、はふいに泣きたくなった。5年なのだ。出会って5年も経っているのに、は未だこの幽霊に恋をしている。いまこの距離でしあわせだと、そう思うことはやさしい。けれどいつか、きっとずっと、届かなくなる時が来る。大人になったら、結婚したら、母になったら 『殿?…どこか、具合でも』 「なんでもないです、あの、ほんと大丈夫ですから」 涙で滲んだ世界の中に、貴方の顔がふと覗く。瞼に微かにふれたものは、 (060610) |