やさしい緋真の葬式は、彼女を知る限られた友人のみでひっそりと行われた。夫である朽木くんと、その友人である浮竹くん、京楽くん。そしてふたりとつるんでいた、このわたし。朽木くんを除いて、朽木の人がいなかったのは、緋真の遺言のためだと言う。緋真と朽木くんとの結婚は、もともと祝福されたものではなかったし、緋真は聡い子だったから、自分がいかに人々に疎まれているかをよくわかっていたのだろう。緋真のためにも、わたしたちのためにも、朽木の人がいなかったことは、とても、よかった。


「良い、葬式だったねえ」
 のんびりと、間延びした京楽くんの声が、夜の闇へと溶けていく。浮竹くんはそれに応えず、朽木くんもそれに応えず、だからわたしはなんどもなんども、ふたりの代わりに肯いた。
「うん、うん、うん…」
 わたしの声は、京楽くんの声のようにその場にはなじまなかった。暗闇の中、ぽっかりと不自然に浮かび上がって、ぱちんとはじけてどこかへ消えた。泣くんじゃないよ、。浮竹くんの大きな手が、わたしの背をそっとさする。俯くわたしに、彼の顔は見えないけれど。たぶん、困ったような顔をしているのだろうと思った。


 やさしいあのこのたましいは、いったいどこへ行ったのだろう。人間に対する我々死神のように、わたしたちの知らない存在が居て、彼女を導いていったのだろうか。それとも、彼女のたましいはもはや存在しないのだろうか。でも、そんな、無、だなんて。そんなのは哀しすぎる。死してなお死ななければならないと言うだけで我々死神の存在は充分に虚しいのに。


 目元をごしごしこすりながら、朽木くんを盗み見る。黙して語らぬ彼の背は、かたくなで寂しげで、じっとなにかに耐えているようだった。どういう訳だか、彼はたぶん、今回のことで、一度も泣いていないのだろうと思った。こういうとき、緋真だったら、彼になんと言うのだろうか。こういうとき、緋真だったら、どうやって彼を救うのだろう。緋真、緋真。やさしい緋真。わたしたちに、もういちど光を見せて。


(20050731)